中国一時出国者の個人所得税に関する注意点

今年1月下旬から急速に感染を拡大させていった新型コロナウィルス(COVID-19)の影響により、中国現地法人や駐在員事務所の駐在員(以下、「中国駐在者」とします。)が中国を出国したまま中国に戻れない状況が続いていました。その後、6月下旬ごろからは中国の入国制限が徐々に緩和され、中国駐在者も徐々に中国に戻り始めていますが、中国駐在員が中国を離れ日本に滞在している期間については、中国、日本両国において個人所得税(日本では「所得税」)の課税関係が複雑となります。今回は、一時出国する中国駐在者に対する中国側での個人所得税の課税上の留意点について概説します。

1.中国駐在者の一時出国

新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大は、中国では1月下旬から始まり2月上旬から中旬にピークを迎えました。その後、感染拡大は世界に広がり、中国では3月28日以降、外国人に対する入国制限措置をとっており、これは、居留許可を保有する中国駐在者にも適用されました。そのため、1月下旬以降に中国から出国し3月27日までに中国に入国していなかった中国駐在者は、中国に戻れない状況が続いていました。その後、6月下旬から中国の入国制限が徐々に緩和され、現在では有効な居留許可を保有する外国人については、適切なビザ申請を行ったうえで中国への入国が認められることとなっています。(8月22日現在)これに応じて、徐々に中国駐在員が中国に戻り始めており、航空便の状況にもよりますが、このピークは9月末から11月頃になるものといわれています。

2.中国駐在者に対する個人所得税の課税

個人所得税が課税される個人は居住者と非居住者とに区分されます。中国駐在者の場合には、通常は「暦年(1月1日~12月31日まで)で183日以上中国に滞在していたか否か」で判定されることとなります。中国駐在者は“居留許可”を取得して中国に入国及び滞在していますが、今回の新型コロナウィルス(COVID-19)の影響による一時出国の期間が長くなり、184日以上日本に滞在している場合には“非居住者”となる点に注意が必要となります。(2020年は366日となります。)

3.“非居住者”に対する課税

中国駐在者が非居住者と判定された場合、中国での個人所得税の課税上は、原則として“中国国内源泉所得”のみの課税となります。(混乱を避けるため、特別な要件については説明を省略します。)多くの場合、中国に滞在しない期間に支給された給料は中国国内源泉所得に該当しませんので、個人所得税は課税されないこととなります。一方、中国に滞在していた期間中に支給された給料(中国滞在日数按分)については、その給料が中国で支払われているか否かを問わず、すべて中国国内源泉所得となりますので個人所得税が課税されることとなります。

上記の原則には、以下のような例外があります。

(1)中国での滞在期間が90日以内の場合

非居住者で、中国での滞在期間が90日以内の場合には、滞在期間に支給された給料のうち、中国国内の法人等が負担する(支払う)給料のみ課税され、国外の法人等が負担する給料は課税されません。ただし、親子会社間の人件費負担等の取り決めにより、国外の法人等が支払った給料について、中国国内の法人等が負担している場合(例えば、中国国内の法人が、人件費負担金等の名目で国外の法人に支払いを行っている場合)については、中国国内の法人等が負担した金額に対して個人所得税が課税されることとなるため注意が必要です。

なお、上記は中国国内法に基づく制度ですが、類似の制度として、日中租税条約に基づくいわゆる183日ルールがあります。しかしながら、いわゆる183日ルールは、日本、中国のいずれか“一方の居住者”であり、かつ、“他方の非居住者”である場合に適用されることとなります。中国駐在員の場合、日本で非居住者となっていることが多く、この状況で中国でも非居住者となる場合には、いわゆる183日ルールの適用条件を満たすことができません。ここでは、詳細についての説明を割愛させていただきます。

(2)中国でのステイタスが高級管理職の場合

中国でのステイタスが高級管理職(総経理や副総経理、首席代表、等)である場合には、国外に滞在している期間についても、中国国内の法人等が負担する(支払う)給料については個人所得税を課税されることとなります。

3.“居住者”に対する課税

中国駐在者の一時出国の期間が短く2020年の中国滞在日数が183日以上となる場合には、“居住者”と判定されます。居住者は、原則としてすべての収入について中国での課税を受けることになりますが、一つ例外が設けられています。居住者のうち“中国に住所を有しない”者については、居住開始から6年未満の場合、国外の法人等が負担する“国外源泉所得”については、課税されないこととされています。この点に関して、少なくとも日本本社から期間を定めて派遣されている中国駐在者に関しては、中国からの一時出国中に日本本社から支給を受ける給料(日本滞在日数按分)については課税されないこととなります。(ただし、日本本社が支給する給料について、給料負担金として日本本社が中国法人から支払いを受けるなど、実質的に中国法人が給料を負担している場合には、この金額については課税を受けることについて注意が必要です。)

4.注意事項

中国駐在者については暦年で“居住者”となる可能性が高いため、年初から月次申告においても居住者として申告している場合が多いかと考えられます。また、筆者が中国において実際に確認しているところでは、中国駐在員が一時出国している事実があるにもかかわらず、月次申告において中国払給料、日本払給料のすべてを課税所得として申告している場合が多く見受けられます。

上記の通り、中国駐在員が“非居住者”“居住者”のいずれと判定された場合であっても、中国から一時出国している期間に関しては、給料の一部もしくは全部について中国で個人所得税の課税を受けない可能性があります。これを前提とすると、個人所得税の納税過多となっている場合が多くあるのではないかと推測されます。申告状況を確認するとともに、必要に応じた税務上の対応が必要と考えられます。

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