【上海快報】 増値税電子専用発票の試験エリアでの運用開始について 

中国ビジネスに携わっていると、否応なく発票(ファーピャオ)の重要性について知ることとなります。発票は税務局によって管理される納税証憑で、従来はすべてが税務局管制の専用用紙を用いて発行されていましたが、2015年から増値税普通発票の電子化が開始され、今年9月1日からはエリアを限定して試験的に増値税専用発票の電子化が開始されています。今回は増値税電子専用発票の試験運用について概説します。

1.増値税専用発票の意義
中国の発票には、取引における①納税証憑、及び②財務証憑、の二つの意義があります。①は、当該取引にかかる税金(増値税)が適切に処理されていることを確認することに意義があり、②は、当該取引における取引金額を確認することに意義があります。発票を“領収書”と日本語訳することがありますが、確かに発票を“領収書”(支払証憑)としての使用する局面もありますが、制度上、発票は現金の受け渡しに伴って発行される文書ではありませんので、必ずしも正確な表
現とは言えない場合があることには注意が必要です。
ところで、増値税発票には増値税“専用発票”と増値税“普通発票”の二種類があります。この二種類の発票の大きな違いは、増値税“専用発票”は、発票の受領者が“一般納税人”である場合に、“仕入税額控除”及び“輸出取引における仕入税額還付”ができる、という点にあります。
2.増値税の課税と“仕入税額控除”
日本の消費税と同様、中国ではモノやサービスの消費に対して増値税が課税されます。そのため、モノやサービスを最終的に消費する“消費者”は、増値税(13%、9%、6%、もしくは 3%)を負担することになります。一方、経営活動を行う企業などの“事業主”がモノやサービスを購入する場合、これは自社の商品の販売やサービスの提供のための必要な支出(以下、『仕入』とします。)となりますが、仮に事業主が仕入にかかる増値税を負担しなければならないとしますと、事業主から提供されるモノやサービスを消費する消費者は増値税を二重に負担しなければならないことになります。そのため、事業主に対しては、法令が規定する一定の場合には“仕入”にかかる増値税額を負担しないこととされており、これを“仕入税額控除”といいます。なお、“仕入税額控除”の対象となる増値税額については、“輸出取引における仕入税額還付”の対象となります。
増値税の課税を受ける事業主は、(1)一般納税人、及び(2)小規模納税人の二種類に分かれていますが、(2)小規模納税人は“仕入税額控除”の適用を受けることができません。一方、(1)一般納税人であっても、“仕入税額控除”の適用を受けるためには、原則として仕入先から当該取引に関する増値税専用発票の発行を受けなければならないこととされています。仕入税額控除は、発票を受領した事業主が、税務局のデータベースにおいて発票の真偽の確認することにより控除の対象となる税額が確定します。

3.増値税電子専用発票の試験運用
発票の電子化は、既に 2015 年から進められていますが、これまでは増値税“普通発票”の電子化に限定されていました。上記の通り、増値税“普通発票”では、仕入税額控除が認められないため、大きな問題もなく極めて広範かつ急速に普及していきました。今年から始まった増値税“専用発票”の電子化については、仕入税額控除や輸出取引における仕入税額還付との関係から受領事業主にも電子化の影響をもたらすことから、エリアを限定したうえで開始されています。


◇増値税電子専用発票の試験運用エリア(2020 年 11 月 1 日現在)
浙江省寧波市
(2020.09.16~)※
発行事業主 寧波市税務局管轄内の新規設立企業
受領事業主 浙江省税務局、寧波市税務局管轄内の一般納税人
河北省石家庄市
(2020.10.12~)
発行事業主 石家庄市税務局管轄内の新規設立企業
受領事業主 河北省税務局管轄内の一般納税人
浙江省杭州市
(2020.10.28~)
発行事業主 杭州市税務局管轄内の新規設立企業
受領事業主 浙江省税務局管轄内の一般納税人


※実際には、2020.09.01~発行事業主を寧波市曙区、慈恵市の新規設立企業、受領事業主を寧波市税務局管轄内の一般納税人として開始されましたが、その後 2020.09.16~上記の通り適用エリアを拡大しています。


今回開始された増値税電子専用発票は、従来の増値税“専用発票”と同様の効果を有するものされています。そのため、仕入税額控除や輸出取引における仕入税額還付への影響はありません。一方、従来の増値税“専用発票”では、「記帳聯」、「発票聯」、「控除聯」の三連綴りとなっており、このうち「記帳聯」を発行事業主、「発票聯」「控除聯」を受領事業主が保管することとされています。増値税電子専用発票に関しては、事業主は、“納税証憑”及び“財務証憑”としてこれ
をプリントアウトして保管しなければならないこととされています。このような納税管理上の観点からは、電子化による事業主に対するメリットは、郵送時の紛失がなくなる点など、現時点においてはそれほど大きいとは言えませんが、今後、“普通発票”に加えて“専用発票”も電子化が進むことを前提とすると、事業主の発票管理や財務管理が今よりも簡便化することが考えられます。

最近の記事

  • 関連記事
  • おすすめ記事
  • 特集記事
PAGE TOP