「上海市人口と計画出産条例」の改正とその影響 について

中国でいわゆる一人っ子政策が方針転換され、一夫婦に2人の子供の出産が認められるようになったというニュースは記憶に新しいかと思いますが、その後、昨年2021年8月に、一夫婦に3人の子供の出産が認められるよう関係法令の改正が実施されています。これに伴って、上海市では、2021年11月25日に「上海市人口と計画出産条例」(以下、「本条例」とします。)が改正されました。今回は、本条例の改正による企業への影響について解説します。

1.人口と計画出産法の改正とその背景

中国は、国の発表によれば2021年12月末現在、14.1憶人の国家人口を抱えています。このような中国では、人口と経済、社会、資源、環境の調和的な発展を実現し、計画出産を促進、国民の合法的な権利を保護するとともに、家庭の幸福、民族の繁栄と社会の発展を図る目的で、「人口と計画出産法」(以下、「計画出産法」とします。)を制定しています。いわゆる一人っ子政策に関しては、この計画出産法において、法令等に定められる例外を除き、国として「一夫婦が出生する子供の人数を1人」とすることを奨励することが明記され、計画出産法及び関連法令により政策が実施されてきました。

その後、2015年12月、それまで中国で実施されてきたいわゆる一人っ子政策が方針転換し、計画出産法の国が奨励する「一夫婦が出生する子供の人数」を2人としました(15年改正)が、それから5年も経たない2021年8月、国が奨励する「一夫婦が出生する子供の人数」を3人としました(以下、「21年改正」とします。)。注目すべきは、この間、2016年12月に発表された「国家人口発展計画(2016-2030年)の中で、国が目標とする国家人口を2020年には14.2億人前後、2030年には14.5億人前後とすることとしていることです。上記の通り、2021年12月末現在の国家人口は14.1億人であり2020年の目標値(14.2億人)を下回っています。国家としては、人口を抑制する段階から人口を増加させる方向に政策転換がはかられていることがわかります。

2.本条例の改正事項

本条例では、計画出産法の21年年改正に伴う上海市における「人口と計画出産」に関わる政策を改正しています。主な改正点は以下のとおりです。

■上海市人口と計画出産条例の主な改正点

項目摘要
政府各部門による家庭の出産、養育、教育負担を軽減するための各措置を実施する具体的な政策の規定はありません
出産に伴い取得できる母親の生育休暇を60日に延長する出産に伴い母親が取得できる休暇は、出産休暇98日に生育休暇60日を加算した158日となります
子供が満3歳になるまでの間、両親それぞれが年5日間の育児休暇を取得できる休暇中、雇用主には賃金の支払義務があります

3.本条例の改正に伴う企業への影響

上記②については、これまで、上海市の企業が雇用する女性従業員が出産する場合に取得する休暇(出産休暇+生育休暇)は、通常出産では128日、難産(帝王切開による出産を含む)の場合には143日でしたが、本条例の改正に伴い、通常出産では158日、難産の場合には173日となります。休暇中の賃金負担については生育保険から支給されることとなりますが、休暇日数の増加により出勤できない期間が増加することには注意が必要となります。

また、上記③については今回の改正で新たに採用される制度となります。母親、父親のいずれも休暇取得できることとされている点、休暇取得日の賃金は給料から控除することができない点について注意が必要となります。

最後に、①については抽象的な規定であり、関連政府部門に直接的な義務を負わせるものではありませんが、上海市政府として積極的に人口増加に向けた政策とこれに必要な財政支出を行うことの宣言と受け止めることができるかと考えられます。この点で、企業に直接的な影響はないものと考えられますが、将来的には、出産・子育てを行う従業員の負担軽減に対する企業としての対応が求められる、企業として人口増加に向けた政策に対する税・社会保険料などによる金銭負担が増加する、などといった可能性があるものと考えられます。

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