外商投資企業の 「有償減資」 について

 出資者が法人に投資した資本を回収する方法としては、主に(1)法人の清算、(2)出資持分(株式)の譲渡、(3)法人の有償減資、の三者となります。このうち、(3)法人の有償減資は、法人を存続させつつ、法人の経営上余剰となった資金を原資として資本を回収することができる方法であり、出資者の資金繰りにおいても欠かすことのできない手法と言えます。しかしながら、改革開放以降、中国に設立された外商投資企業(外国からの出資により中国国内に設立された企業)では、(3)法人の減資(有償減資を含む)が原則として禁止されてきました。そのため、多くの外商投資企業では経営上資金が余剰となる場合においても、投資された資本金そのものを回収することができませんでした。その後、2020年1月、外商投資法の施行に伴い、それまで外商投資企業の減資を原則として禁止してきたいわゆる外資三法が廃止され、現在では法律上、外商投資企業においても減資が認められています。今回は、外商投資企業の減資に関して、その手続きと注意点について説明します。

1.中国の外商投資企業における「有償減資」の意義

 会社が設立され出資者から払い込まれた資本金は、会計処理上「(払込)資本金」として処理されますが、日本では、「減資」とは、この「(払込)資本金」を減額することを指します。また、この「(払込)資本金」の減少に伴い出資者に対して資本金を払い戻すことを「有償減資」と言います。これに対して、中国では、会社法上、登録資本金(※)を減額することが「減資」とされています。中国では、「有償減資」に関して明確な定義はありませんが、登録資本金を減少し出資者に資本金を払い戻すことが「有償減資」といえます。

(※)登録資本金とは、定款により出資者による払込が義務付けられる資本金額を意味しますが、現在の制度上では、必ずしも払込資本金と一致する概念ではありません。

 中国では、改革開放政策に伴い、中外合弁企業法(1979年)、中外合作経営企業法(1988年)、外資独資企業法(1986年)(以下、これら三法を併せて「外資三法」とします。)を制定し、外国から中国へ投資して会社を設立することを認めてきました。外商投資企業とは、外資三法に基づいて外国からの投資を受けて設立された会社を指します。外資三法では、原則として登録資本の減少が禁止されていましたので、外商投資企業が「有償減資」により出資者に対して資本金を払い戻すことは極めて難しい状態にありました。

 その後、2020年1月より外商投資法が施行されたことにより外資三法は廃止され、外商投資企業についても原則として公司法が適用されることとなりました。現在の公司法では登録資本金の減少手続きが設けられており、外商投資企業においてもこの手続きに基づいて「有償減資」を実施することが認められます。

2.「減資」の手続き

公司法で規定される登録資本金の減少手続きは、以下のとおりです。

◇登録資本金の減少手続き

 手続き
(1)貸借対照表及び資産目録の作成
(2)資本金の減少額等の意思決定(董事会決議+株主同意)
(3)債権者への通知、及び新聞公告
(4)登記変更手続 (3)の手続きから45日以上経過が必要)

外商投資企業の「有償減資」の場合には、更に以下のような外貨管理上の手続きを経て出資者への資本金の払い戻し(送金)が行われることになります。

◇有償減資に伴う資本金の払い戻し手続

 手続き
(5)外貨登記変更手続 (取引金融機関)
(6)資本金の払い戻し送金手続き (取引金融機関)

3.注意事項

 上記の通り、法律上は外商投資企業であっても公司法に規定される手続きを経て「有償減資」の手続きを行うことができることとされています。しかしながら、工場など経済開発区や工業園区などといった特別区内に設立された会社では、資本の変動については特別区管理委員会による事前の承認が必要とされていることが多いのですが、登録資本金額は特別区における投資の導入実績に反映されるため、登録資本金額の減少については特別区管理委員会における承認が得られない、という場合も考えられます。このような特別区に所在する会社の場合には、事前に管理委員会と確認や調整を行う必要があるものと言えます。

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