2019年1月1日より個人所得税に関する総合所得課税制度が開始されていますが、この制度の中では専項付加控除と呼ばれる7項目の所得控除が制度化されています。一方、外国人赴任者に関しては、1997年に出された通達により、通達に列挙される所得については課税が免除されるという課税特別措置の適用を受けることができることとされています。そのため、外国人赴任者は、個人所得税の課税にあたり専項付加控除と課税特別措置の両制度の適用を受けることができることとなりますが、2023年に出された通達により重複して両制度の適用を受けることはできないこととされました。今回は、外国人駐在員が適用を受ける上記両制度の概要とその重複適用の禁止に関して説明します。
1.総合所得課税制度における専項付加控除の内容
総合所得課税制度においては、税額計算の基礎となる“課税所得”は以下の計算式に基づいて計算されます。
■総合所得に関する課税所得の計算式
課税所得 = 収入総額 - 基礎控除額 – 特別控除 |
上記計算式のうち、基礎控除は60,000元とされます。また、特別控除は(1)専項控除と(2)専項付加控除に分類されます。
■特別控除
種類 | 内容 |
(1) 専項控除 | 中国の法令に基づいて支出された年金、基本医療保険、失業保険等の社会保険、及び住宅積立金などの金額 |
(2) 専項付加控除 | 幼児扶養、子女教育、継続教育、重大疾病医療、住宅ローン利息又は住宅賃借料、高齢者介護などのために支出された金額 |
このように、専項付加控除は総合所得課税における課税所得を減殺する項目ですので、専項付加控除の各項目の適用を受けられる場合には、その分個人所得税額が減少することになります。専項付加控除の各項目の内容は以下のとおりです。
![](https://seiwa-group.or.jp/wp-content/uploads/2024/05/image-1024x474.png)
2.外国人赴任者に対する課税特別措置の内容
この課税特別措置は、外国から中国への投資を奨励するため、中国に赴任する外国人(及び間接的に外国企業)への課税負担を軽減する目的で1997年に設けられた措置となります。外国人の中国への赴任及び駐在にかかる個人的な支出を会社が負担した場合、原則として当該外国人が所得を得たものとして個人所得税が課税されます。これに対し、本課税特別措置では、適用条件を満たす場合には、会社が負担した個人的な支出について、個人所得税の課税を免除することとしています。具体的には、以下のような項目について適用されます。
◇外国人赴任者が課税を免除される所得
項目 | 適用条件 |
住宅手当 | 会社契約方式、現金精算方式 |
食事手当、クリーニング費用 | 会社支出方式、現金精算方式 |
赴任・帰任にかかる引越手当 | 現金精算方式 |
国外出張手当 | 合理的な基準に基づく金額(支出の証憑必要) |
ホームリーブ費用 | 合理的な回数、合理的な金額(支出の証憑必要) |
言語学習・子女教育手当 |
なお、本課税特別措置については、2027年12月31日で失効することとされています。
3.重複適用の禁止
上記のように、総合所得課税制度における専項付加控除、外国赴任者に対する課税特別措置のいずれとも、課税所得を減殺することにより個人所得税の負担を減少する点で共通しています。そのため、2023年より両制度の重複適用を禁止し、一課税年度(1月1日~12月31日)においては、いずれか一方の制度のみの適用を受けられることとなりました。
筆者が認識している限りでは、中国現地法人において、赴任者の中国での住宅にかかる賃借料を会社が負担しているものの、赴任者の個人所得税申告においてこれを所得に加算していない、というようなケースが多くあるものと思われます。このような場合、免除にかかる手続きの有無は別として、既に外国赴任者に対する課税特別措置の適用を受けた状態と言えるため、別途総合所得税制度における専項付加控除の適用を受けることはできないものと考えられるため、注意が必要と言えます。