個人所得税に関する課税特別措置の失効期限の延長について

 2022年がスタートしましたが、世界では今も新型コロナウィルス感染拡大による経済へのダメージが大きく、中国においても特に小規模企業や個人への影響が問題視されています。このような中、2021年年末の国務院常務会議において、2021年12月31日に失効することとされていた個人所得税の一部の課税特別措置について、失効期限を2023年まで延長することが発表されました。今回は、失効期限が延長される個人所得税の課税特別措置の内容と失効期限の延長について概説します。

1.改正個人所得税法の施行と課税特別措置の廃止の決定

個人所得税法は、2019年1月1日より大きな改正が行われました。(以下、「2019年改正」とします。)2019年改正には、二点の大きな特徴があります。一点は、「賃金・給料所得」、「労務報酬所得」、「原稿報酬所得」、「特許権使用料所得」の四種類の所得が総合所得として年間で課税されるようになったこと(以下、「年間総合課税制度の導入」とします)、もう一点は、総合所得の課税において、基礎控除のほかに「専項付加控除」と呼ばれるその他控除が認められるようになったこと(以下、「その他所得控除の追加」とします。)です。

一方、2019年改正以前においては、納税者の負担が軽減するため、いくつかの課税特別措置が設けられていました。2019年改正の施行にあたり、改正法の施行から2021年12月31日までの2年間を移行期間とし、その後はこれらの課税特別措置を廃止することとされていました。

2.課税特別措置の内容

2019年改正の施行にあたって廃止されることになった課税特別措置はいくつかありますが、ここでは、駐在員への課税と関係の深い「年賞与に関する特別措置」と「外国人赴任者に関する特例措置」について取り上げます。

(1)年賞与に関する課税特別措置

 2019年改正前の個人所得税法では、賃金・給料所得は原則として月次で計算することとされ、当月中に支給される賃金・給料を前提として超過累進制(所得帯に応じて税率を確定する制度:高額の所得帯になるに従い税率が高くなります。)に基づき税率を確定させこととされていました。この制度の下では、賞与支給月は、当月支給の賃金・給料に賞与を加えた金額が当月所得として認識されるため、賞与に対して比較的重い税率が適用される結果となる場合があります。そのため、年一回支給される賞与(以下、「年賞与」とします。)については、賃金・給料と別に、以下の計算方法により税額を計算することが認める課税特別措置が設けられました。

【計算方法】

  • 【税率確定標準】 = 賞与支給額 ÷ 12ヶ月
  • 【税率確定標準】を超過累進税率表に照らし、賞与に用いられる税率、速算税額控除額を確定
  • 【年賞与にかかる税額】 = 賞与 × 税率 - 速算税額控除額

(2)外国人赴任者に関する課税特別措置

  • 本課税特別措置は、外国から中国への投資を奨励するため、中国に赴任する外国人(及び間接的に外国企業)への課税負担を軽減する目的で1997年に設けられた措置となります。外国人の中国への赴任及び駐在にかかる個人的な支出を会社が負担した場合、原則として当該外国人が所得を得たものとして個人所得税が課税されます。これに対し、本課税特別措置では、適用条件を満たす場合には、会社が負担した個人的な支出について、個人所得税の課税を免除することとしています。具体的には、以下のような項目について適用されます。
  • ■外国人赴任者が課税を免除される所得
項目適用条件
住宅手当会社契約方式、現金精算方式
食事手当、クリーニング費用会社支出方式、現金精算方式
赴任・帰任にかかる引越手当現金精算方式
国外出張手当合理的な基準に基づく金額(支出の証憑必要)
ホームリーブ費用合理的な回数、合理的な金額(支出の証憑必要)
言語学習・子女教育手当 
  • 3.課税特別措置の失効と失効期限の延長
  • 上記で説明した課税特別措置のうち、(1)に関しては、2019年改正の「年間総合課税制度の導入」により「賃金・給料所得」は総合所得として年間所得に対して課税されるようになりましたので、理論上、課税特別措置による賞与に対する課税負担の軽減の必要がなくなりました。また、(2)に関しては、現在においては外国から中国への投資を奨励する必要性が減少していること、外国人と中国人との課税の公平性が必要とされていることに加え、2019年改正の「その他所得控除の追加」により課税負担を減少する制度が創設されたことにより、課税特別措置による外国人に限定した課税負担の軽減の必要性がなくなりました。2019年改正の施行に伴い(1)(2)の両措置ともに2021年12月31日で失効するものとされていた背景にはこのような事情があるものと考えられます。
  • 一方、2021年12月31日付の税務総局公告により失効期限が2023年12月31日まで延期されることとなりましたが、これは新型コロナウィルス感染拡大に伴う経済的な影響を考慮した個人への負担軽減を目的とした一時的な時限措置と考えられます。

最近の記事

  • 関連記事
  • おすすめ記事
  • 特集記事
PAGE TOP